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最高裁判所第三小法廷 平成2年(あ)1095号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人上林博外二名の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

なお、所論は、第一審判決判示第一及び第二の事実につき、所得税法二四一条の単純不申告罪が成立するにすぎず、同法二三八条一項のほ(逋)脱罪は成立しない旨主張するので、この点について、職権により判断する。

原判決の認定するところによれば、本件は、麻雀店三店を経営する被告人が、ほ脱の意思の下に、店の売上金の一部をあらかじめ設けておいた仮名又は借名の預金口座に入れて保管し、事業所得などにつき確定申告をしなかつたというものであるが、被告人は、営業状態を把握するため、各店長に店の売上げを正確に記載した帳簿を作成させており、これをことさら税務当局から隠匿したり、これとは別に虚偽の帳簿を作成したりするなどの工作を積極的に行つた形跡は認められないというのである。しかしながら、このような場合であつても、税務当局が税務調査において右の帳簿の内容を確知できるという保障はないのであるから、仮名又は借名の預金口座に売上金の一部を入金保管することは、税務当局による所得の把握を困難にさせるものであることに変わりはなく、ほ脱の意思に出たものと認められる以上、所得秘匿工作に当たるものというべきであり、このような所得秘匿工作を伴う不申告の行為は、同法二三八条一項のほ脱罪を構成するものということができる。したがつて、原判決は結論において正当である。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

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